LGBTの生きづらさをうみだす、アンコンシャス・バイアス

差別の根底にある「アンコンシャス・バイアス」
人種や宗教に関する差別
性に関する差別
能力に関する差別
この世界が安全で、人びとが互いを認め、共生できる社会を目指すためには、まだまだ乗り越えなくてはいけない差別が多く存在する。
人はなぜ差別をするのだろうか?
その根底には、人なら誰しもが備える認知が関係している。
認知とは、物事を理解したり、判断したりする知的な機能のことをいうが、心理学の観点からみて、われわれの認知は差別や偏見をうみやすいことが指摘されている。
なぜならば、認知には無意識の思い込みや偏見(アンコンシャス・バイアス)が存在するからだ。

アンコンシャス・バイアスは、過去の膨大な経験や周囲の人々の意見、日々接する情報、教育などから形成され、自分にとって当たり前で、「普通は○○だ」「当然、●●すべき」といった言動に潜んでいるものである。
誰もがもっているいるに関わらず、その存在に気づき、自覚した言動をとる人は多くない。
しかし、アンコンシャス・バイアスが潜む認知を通じて、自分が「当たり前」と捉えてしている言動が、実は誰かを傷つけ、誰かの生きづらさをつくっているかもしれない。
LGBT当事者が抱える困難
一人ひとり置かれている状況は異なるものの、LGBT当事者は、さまざまな困難に直面し、生きづらさを抱えていることが少なくない。
LGBT法連合会*1が発表しているLGBT困難リストによると、困難には2つの側面があり、一つは「人々の理解が進んでいないことによる生きづらさ」、一つは「法整備が追いついていないことによる不可能」と考えられている。
学校や職場、公共施設で差別的な言動を受けたり、制度の不備や担当者の偏見から不快な経験したりする人や、家族や友人など身近な人に理解されず、怒りや悲しみを抱えたり、社会から孤立したりする人もいる。

生田斗真が、性別適合手術を受けたトランスジェンダーの女性「リンコ」を演じたことで話題になった映画「彼らが本気で編むときは、」*2では、リンコの中学時代の回想シーンがあり、男女の性に偏った教育や周囲の理解のなさに苦しむ様子が描写されている。
中学時代のリンコは、身体の性によって決められた柔道の授業を受ける中で、胸部が露わになり、「キャー」っと悲鳴をあげる。すると同級生からは大きな笑いが起きる。
さらに、その後リンコが体育の授業への参加を避けるようになると母親が教師に呼び出され「サボり」「なめている」と高圧的な態度の指導を受けるのだ。
そこには、望まぬ授業に参加しなくてはならない苦しみ、「心の性」が女性であるにも関わらず思春期に胸部を他人に見られる苦しみがある。
そのうえ、その苦痛を理解されず、同級生からからかいを向けられ、教師からは誤解を受けるという多くの困難が描かれている。
これは作品世界での話だが、現実世界においても人々の理解のなさから、怒りや悲しみ、不快を感じる体験をしたLGBT当事者は少なくない。
学校や職場、公共施設で差別的な言動を受けたり、制度の不備や担当者の偏見から不快な経験したりする人や、家族や友人など身近な人に理解されず、怒りや悲しみを抱えたり、社会から孤立したりする人もいる。
【お店つくってみた②】ゲイ差別問題?意外な落とし穴。ゲイを商売にした私がLGBTQについて考える
この動画では、LGBT当事者のオーナーが商売のために物件を借りようとしたところ、ゲイを理由に貸し出しを拒否されたエピソードが涙ながらに語られている。
次の動画においては、LGBT当事者が周囲から「彼女いないの?」「女の子になりたいの?」などの質問を受け、不快感や違和感を感じたことが語られている。
これだけは聞かないで!ゲイにしてはいけない質問集!Don’t Ask Gay People【ゲイ】
また、これらの差別や偏見の存在は実際の調査によっても示されている。
2016年7月15日~10月31日に実施されたLGBT当事者の意識調査*3では、15,064人のうち、職場や学校で差別的発言を聞いたことのある当事者は71.7%であることが明らかになったのだ。
多様な性への理解が薄い人は、知らず知らずのうちに性に対して偏りのある見方で物事を捉えがちである。
その結果、常識をあてはめることで当事者に苦しみを与えたり、偏見の眼差しを向けることで当事者を傷つけたりしている。
理解が薄い人たちの多くは、相手を傷つける明確な意図はないのかもしれない。
しかし、「男性は男性らしくしなくてはいけない」「LGBTの人は問題がありそう」といったアンコンシャス・バイアスを通じてなされる言動は、当事者のこころに深いダメージを与えている。
アンコンシャス・バイアスに気づき、習慣や常識を見直そう

アンコンシャス・バイアスがいくらLGBT当事者のこころにダメージを与え、誰かの生きづらさをつくるきっかけとなるとしても、それらを完全になくすことは不可能だ。
しかし、自分がもっているアンコンシャス・バイアスに自覚的になり、少しでもそれを弱めようとすることができれば、誰かの生きづらさを減らすことにつながるということを知って欲しい。
そうした情報に触れるなかで、否定的な見方や感情、違和感が出てきた時には、「自分の思い込みや偏見はないか?」と立ち止まって考えてみて欲しい。
そこに自分のアンコンシャス・バイアスが潜んでいる可能性を疑うのだ。
さらに、そのような意識をもって身の回りの習慣や常識を見渡し、その考え方を今一度点検して欲しい。
自分の周りに存在する性的指向・性自認に関する差別につながるコミュニケーションやルール・システムがないかを見直し、改善をしていくことが望まれる。
この世界が安全で、人びとが互いを認め、共生できる社会を実現するためには、一人一人が自らのアンコンシャス・バイアスを乗り越え、他者に対する想像と正確な理解をもち、個性や大切にしている価値観を認め合う必要があるのだ。
参考資料・エビデンス
*1. LGBT法連合会ホームページ
https://lgbtetc.jp/news/1348/
*2. 彼らが本気で編むときは、|J Storm OFFICIAL SITE
https://www.j-storm.co.jp/s/js/discography/JABA-5186_01?ima=4946
*3. LGBT 当事者の意識調査 ~いじめ問題と職場環境等の課題~
https://health-issue.jp/reach_online2016_report.pdf
関連記事:性感染症予防とメンタルヘルス〜HIV感染リスク管理のためのPrEP〜
https://hyakko.jp/sexually-transmitted-diseases-and-mental-health-disorders/